酒場その1
プリンセスが俺を見ている。
そう思った途端、ロベルトは舞い上がった。
たとえそれが半眼で胡乱げなまなざしであったとしてもだ。プリンセス・アイリーンの瞳に自分が映っていることに変わりはない。
止めようとしても、自然に口元がだらしなく緩む。まぁ別に止めようとも思わないのだが。
「なんです?俺があまりにいい男で見とれちゃいました?」
「そんなわけないでしょ。」
瞬時に冷水のごとく冷たい答えが返る。
しかしそこでまたまた舞い上がるのがロベルトという男だ。たとえ氷点下の答えであろうが、アイリーンが自分の言葉に応えてくれたのには違いない。全くこたえない様子で、へらへらと話しかける。
「やっぱり?んじゃ、ご用は何です?」
「それはこっちのセリフ。さっきからじーっと人の顔見てたじゃない。ロベルトの方こそ、何か用なの?」
・・・・・あー。
つまり、俺があんまりじーっと見てるもんで、プリンセスがこっちを見てたと。
そういうわけだ。

「もちろん、用ならありますよ〜。俺はプリンセスの瞳を独り占めしたいんです。」
「また酔っているのね…」
掛け値なしの本気だったが、アイリーンはどこまでも素っ気ない。
それでも席を立たないでいてくれるのが嬉しい。
アイリーンといる間は、ロベルトの脳のどこを切ってもどきどきとかわくわくとかうきうきしかでてこない。平に言えば頭が春だ。
彼の容赦のない友人が聞けば、「末期ですね…」とため息まじりに軽蔑してくれることだろう。
そんな状態なので、アイリーンとの別れ際は大変だ。
引き延ばすにも限界がある。
明日も早いからと言われては、強くも出れない。
このあと、別の男に偶然出会って話でもしたらと思うといてもたってもいられない。
いっそ尾行したいが、ばれたら確実に殺されるので我慢する。だいたいアイリーンに殺されるなら本望だが、この件に関してはライルを始め各方面に嫌な心当たりが多すぎる。
「そうっすね、じゃあ今日はこの辺で…」
となるべく笑顔で別れるようにはしているが(うざったがられるのは嫌だ)、もう本当に渋々だ。心の中は真っ暗闇だ。
俺、暗いとこ苦手なのに!
見当違いな文句を心の中でつぶやいていると、アイリーンがくるりと振り返った。
「ロベルト」
「はいぃっ…なんすかっ?!」
…焦ったせいで思いっきり声が裏返った。
か、かっこ悪…!
「…なに慌ててるのよ。あんたにいっても無駄かもしれないけど、帰ったらなるべく早く寝てよね?
明日も早いんだから。」
最後のセリフは、笑顔だった。それだけ言うとアイリーンは、またくるりと踵を返して王宮へと帰っていった。
それって。
それってつまり。
明日も俺を誘ってくれるってことですよね?!
おおげさでなく不幸のどん底にいたロベルトは、その瞬間一気に舞い上がった。
今日という一日は、あの笑顔のためにあったのだ。いやマジで。
「俺ってついてる…!」
さっきとはうってかわってスキップでもしそうな足取りで、ロベルトはうきうきと帰路についたのだった。
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